『 その声はいまも 』
あの女<ひと>は ひとり
私に立ち向かってきた
南三陸町役場の 防災マイクから
その声はいまも響いている
わたしはあの女<ひと>を町ごと呑みこんでしまったが
その声を消すことはできない
「ただいま津波が襲来しています
高台へ避難してください
海岸近くには
絶対に近付かないでください」
わたしはあの女<ひと>の声を聞いている
その声のなかから
いのちが蘇るのを感じている
わたしはあの女<ひと>の身体を呑みこんでしまったが
いまもその声は わたしの底に響いている
津波を擬人化した「わたし」。「あの女(ひと)」とは、最後まで避難を呼びかけた宮城県南三陸町の職員、遠藤未希さんのこと。詩人、高良留美子さんの一作で、1月28日(土)の朝日新聞の朝刊の天声人語で紹介された。
引用させてもらうと、
高良さんの詩は、ひとりの女性への静かな敬意に満ち、人間が自然への畏怖(いふ)を忘れてきたことへの悔悟が流れている。美談を超えていく言葉の勁(つよ)さがある。鎮魂と新生の声が聞こえる。
と、ある。
本当にそう思う。短い言葉の中にこれだけの思いを表現できる。詩人の言葉を操る技の凄さだろう。
あの女<ひと>は、その瞬間何を思っていたのか。ここにあるのは全文ではない。是非全文を読んでみたい。
そして、自分が発するセリフに、このような表現力が欲しい。
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